安比川の流れとともに
旅する漆物語

岩手県の八幡平市から二戸市へと流れる安比川。民俗学の祖である柳田國男は著書のなかでこの流域を含む旧南部藩領北部を「奥南部」と称し、川とともにある農の風景を讃えました。ここで古くから現代まで継がれてきたのが、木から器をつくり、良質な漆を掻き、丈夫で美しい漆器を仕上げる技術。安比川の上流域には木地師、中流域には塗師、下流域には漆搔き職人が多く住み、豊富な森林資源を活かしながら、川沿いの集落ごとに分担して地域で一体的な漆器生産を行ってきました。そして、この生業が今は文化として貴重な国産漆の生産を支え、それぞれの地域の漆器は安比塗、浄法寺塗として愛され、日本遺産として世界に誇る宝となっています。

風景のなかに今も点在する歴史に想いを馳せ、森をめぐって技を知り、職人を訪ねて情熱に出会う。今昔を渡って紡がれる物語をたどって、深く美しき漆の旅へ、みなさんをお連れします。

撮影:奥山淳志

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