最後の漆室
「小山田家塗室」
八幡平市博物館の敷地内に、茶室のような独特の造りが目を引く建物があります。明治初期に建てられた、漆器の塗りや乾燥などの作業のための塗室です。もともとは八幡平市浅沢地区の岩屋地内にある小山田家で使われていたもので、2021年に八幡平市博物館前へ移築・復元されました。
安比川中流域に位置する浅沢地区は、古くから塗師たちが多く暮らす集落でした。昭和初期にはおよそ160戸のうち、76戸が漆塗りを生業としていたと記録されています。浅沢の塗師たちの多くは個人で活動しており、みんなで集落にある室を共同で使っていたそうです。当時はかやぶき屋根。密閉性が高く、湿度や温度変化が少ない土壁が用いられました。室(むろ)の中には炭を入れる石造りの四角い鉢が置かれ、塗師たちはその鉢で暖を取りながら作業していました。
1950年代までは浅沢地域全体にいくつも建っていた室ですが、今やこれが最後のひとつとなっています。
浅沢地区で生産された漆器は県内をはじめ、秋田、青森、宮城などの近隣県でも販売されていました。しかし戦後、ベークライトと呼ばれるプラスチック製品の登場により、漆器生産は一気に衰退。その後、浅沢の塗師たちは赤坂田の木地師と同じように炭焼きに転向したり、出稼ぎに出たりするようになり、残念ながらこの地区から塗師の姿は消えてしまいました。浅沢の漆器産業を理解する上で貴重な文化財です。
撮影:奥山淳志
写真提供:神奈川大学日本常民文化研究所
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※塗室は博物館の敷地内にあります。