浄法寺塗の制作

地元で採れた漆を豊富に使って塗ることで生まれるマットな質感を特徴とする浄法寺塗。時間も手間もかけて塗り重ねられることで美しさと堅牢さを両立させています。

採取されたばかりの漆は「荒味漆」と呼ばれ、そこからゴミを取り除いたものを「生漆」と呼びます。生漆のままでも下地用として使えますが、滴生舎の工房では、浄法寺漆の生漆を下塗り、中塗り、上塗りに適した漆に精製しています。

精製は、まず漆の成分を均一にする「ナヤシ」を行います。その後、加熱して余分な水分を取り除く「クロメ」を経て、透明な飴色の「透漆」ができます。透漆に顔料を加えると、さまざまな色漆ができ、黒漆は「クロメ」の段階で鉄粉を入れてつくります。精製された「透漆」は光の屈折率が高く、深みのある光沢が特徴です。

精製の次は、塗りの作業。まずは木地に生漆をたっぷり浸み込ませる「木固め」、上面を滑らかにし、何度も漆を塗っては磨く作業を繰り返して強度を増す「下塗り」と「中塗り」。そして最後の「上塗り」は、ゴミやほこりをつけないように専用の部屋でハケ目の跡を残さず美しく仕上げます。漆は採取時期や、採取する職人によって、性質に違いが生じるもの。漆器に漆を塗る塗師も、その違いを把握し、厳密に使い分けています。

塗りの後は、温度と湿度が一定に保たれた「フロ」と呼ばれる箱で漆を硬化させます。そうすることで漆の主成分である「ウルシオール」が酸化して固まり、酸やアルカリ、塩分、アルコールにも強く、耐水性や防腐性に優れた丈夫な器が出来上がるのです。

そうして何層にも漆を塗り重ねられた本物の漆器は、5年、10年と使い続けることで艶が増し、透明感が出てくるのも醍醐味。一部が欠けたり、塗りがはげたりしても塗り直しができ、何世代も受け継いで使い続けられます。

撮影:奥山淳志
写真提供:二戸市

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