漆掻き職人の仕事と道具
日本国内で使われる漆の約95%は外国産で、国産はわずか5%ほど。その国産のおよそ75%以上が、二戸市浄法寺地域と、その周辺で採れる「浄法寺漆」です。
「浄法寺漆」は認証委員会が設けた基準を満たしたもののみを指します。基準のひとつは、二戸市をはじめとする岩手県全域と、青森県南部から北部まで広がる三八地方・秋田県北部で採取された漆であること。そして、どこで採取されたかだけでなく、伝統的な漆掻き技法に則って作業されているかも、認証委員が現場へ赴き、調査しています。
浄法寺漆は、「殺し掻き」と呼ばれる方法で採取されます。作業を行うのは6月から11月上旬まで。職人はその年に掻き採る漆の木の本数を決め、4グループに分けて、1日1グループずつ作業を進めます。
まずは下準備から。漆の木の下草を刈って日当たりを良くします。梅雨入りの頃、鎌で漆の樹幹の表皮を薄く剥いで平らにならし、カンナを使って根本から20センチほどの高さの幹に2〜3センチほどの「目立て」と呼ばれる傷を付けます。これは、「今から漆を採りますよ」という合図。この目立てを基準として、上方へ前より少し長い「辺掻き」という傷を4日ごとに付けます。4日間というのは、傷をつけた漆の樹勢が回復するための日数。漆の傷から分泌される乳白色の樹液は「ヘラ」で掻き取り、「タカッポ」と呼ばれる搔き樽に入れます。
辺掻きが終わると、今まで手を付けていなかった部分にも傷をつける「裏目搔き」を行います。最後の一滴まで大切に掻き採った木は、切り倒されて役目を終えます。殺し掻きという名前自体は少し物騒ですが、漆は根萌芽力が強いので、翌春には根から新しい芽を出します。
漆が採れる量は樹齢や季節、天気によっても変わるため、それを見極めて良質な漆を無駄なく採るのは、経験を積んだ職人技です。
写真提供:二戸市